“MF Drive”のフィルターには伝統の4ポール・ラダー型を採用しています

シンセサイザーの発明~発展史に大きな足跡を残したモーグ・ミュージックの創立者、故ボブ(ロバート・アーサー)モーグ氏。“Moogerfooger”アナログ・エフェクター・シリーズの開発は、彼の最晩年に立ち上げられたプロジェクトであった。

--各モデルについて聞かせて下さい。“MF Drive”の歪みはFETとOTA(Operational Transconductance Amplifier)の各素子により生成されていると聞いています。このうち、後者はどのようなエフェクトをサウンドにもたらしますか?

MM : OTAを用いた増幅回路は、チューブ・アンプに近いクリッピング・カーヴを描きます。音色がリッチで温かく、ハーモニクスも豊富です。OTAはアナログ・シンセサイザーのVCA(Voltage Controlled Amplifier)を構成する主要なパーツのひとつでもあり、私たちはこれをオーヴァードライヴ・ペダルに採用することでモーグらしい音色を生み出したいと考えました。

--“GAIN”と“OUTPUT”をフルにし、“PEAK”スイッチをONにして“TONE”と“FILTER”を操作していくと、あるポイントで“発振~フィードバック”に近い効果が得られました。このエフェクトは、どのような原理で生じるのでしょうか?

MM : “PEAK”スイッチはフィルター・セクションのレゾナンスをON/OFFするもので、これを有効にすると4ポール・ラダー型フィルターのカットオフ周波数に当たる倍音をフィードバックさせ、強調することができます。つまり、OTAやFETによってすでにドライヴさせられたギター・サウンドに、フィルターの設定に応じた特定の周波数の倍音を積極的に加えられるわけです。このレゾナンスはモーグ・シンセサイザーに不可欠の要素であり、根幹を成す4ポール・ラダー型フィルターには、非常に音楽的なトーンを生成するという他のフィルターにない特徴があります。シンプルな回路でありながら表現力に富んだフィルターを、ギタリストのみなさんにも楽しんでいただければ幸いです。

--“MF Drive”のフィルター・セクションは音作りの幅が極めて広いために、一般的なストンプボックスのトーン/EQコントローラーに馴染んできたギタリスト~ベーシストに戸惑いを生じさせるかもしれません。 “MF Drive”を初めて弾く時、各パラメーターをどのポジションからスタートし、どう動かしていくとそのポテンシャルを体感しやすいと思いますか?

● MF-101 Lowpass Filter(左)● MF-102 Ring Modulator (右)
新しいサウンドを探求し続けるクリエイターからの高い評価を得て、今日も販売され続けている初期の“Moogerfooger”。シンセサイザー・モジュールに匹敵する機能をペダル型筐体に収めたこれらのユニットを、よりユーザー・フレンドリーなギター~ベース向けストンプボックスへと発展させたのが“Minifooger”である。

MM : モーグのラダー・フィルターを操作したことがないギタリストには、まず“PEAK”スイッチをOFFにし、“FILTER”ノブを時計方向に回し切ってから“TONE”ノブで音作りをしていくことをお勧めします。“TONE”ノブを反時計方向に回し切ればリッチでダークなサウンドが、12時付近ではミッドがスクープされたチューブ・アンプ的なサウンドが得られ、時計方向に回し切ると線が細いハイ・パス・サウンドになります。
このようにして基本的な音作りに慣れてきたら、次に“TONE”を2時付近に設定し、“FILTER”や“PEAK”スイッチをいじってみると良いでしょう。この時、“FILTER”パラメーターを操作可能なエクスプレッション・ペダルを用いると便利で、本機をユニークなサウンドを持つワウ・ペダルのように扱うこともできます。製品に同梱されているクイック・スタート・ガイドにもいくつかのセッティング例が載っていますので、参考にして下さい。
なお、“MF Drive”はクリーン・ブースターとして用いた際にも良いサウンドが得られるよう設計されています。クリーンなセッティングで“TONE”や“FILTER”を操作すると、その効果を把握しやすいケースもあるでしょう。

--次に、ブースターである“MF Boost”の増幅回路はVCAとOTAの組み合わせからなると聞いています。この場合、OTAはサウンドにどのような色づけを行ないますか?

MM : “MF Boost”では、“BOOST”スイッチをOFFにした状態では原音がVCA回路を通過し、ONにした状態ではOTA素子を通過します。前者では非常にリニアなレスポンスを得られる一方、ゲインをユニティ(注:入力レベルと出力レベルの比が=1:1であること)より大幅に上げることはできません。これに対して、後者ではゲインを大幅に上げることが可能になりますが、レスポンスはソフト・クリップがかかったものへと変化します。これが、チューブ・アンプのクリップと非常によく似たサウンド・キャラクターを生成するんです。

電子部品を取り付けられた“Minifooger”の基板をチェックするスタッフ。

--エクスプレッション・ペダルを用いて“GAIN”パラメーターを操作すると、ブースト・ゲインをシームレスに増減させられます。とても実用的な装備だと感じました。

MM : ダイナミクスのコントロールは、エレクトリック・ギターの演奏においてとても重要です。多くのギタリストはパッシヴ・ヴォリューム・ペダルを用いてダイナミクスのコントロールを行なっていますが、この場合、ペダルをいくら踏み込んでももとのセッティング“以上に”音量を増すことはできません。これに対して“MF Boost”をシグナル・チェーンに加えたセッティングなら、ヴォリュームを全開にしたギターをさらにブーストしてチューブ・アンプをドライヴさせた時のサウンドを、エクスプレッション・ペダルを用いてシームレスにコントロールできるわけです。

--“TONE”パラメーターの特性を決める際、どのような点に気をつかいましたか?

MM : “MF Boost”の“TONE”は、極めて広範なフリーケンシー・レンジをカバーしています。一般に、ブースターではゲインを高くするにつれて高音域が耳障りになっていくため、この部分をうまく操作できるパラメーターが必須です。“TONE”の特性を決める際には耳によるサウンド・チェックを重視し、シンプルでありながら幅広い音作りができるコントロールとしました。