Minifooger MF Drive

伝統のラダー・フィルターが生み出す多彩なトーン

ギタリスト~ベーシストが好む“チューブ・アンプ的な”歪みを生成するオーヴァードライヴに、モーグ・シンセサイザーが伝統的に採用してきたラダー型フィルターを組み合わせたユニット。“PEAK”スイッチ=OFFの状態で“OUTPUT”を除くすべてのノブを12時付近に設定すれば、弦楽器プレイヤーが慣れ親しんだウォーム、かつスムーズな歪みが得られ、OTA ICを増幅器に用いた効果か、ピッキングの強弱に対する応答からはほのかなレベル・コンプレッションも感じることができる。この場合、“TONE”コントロールを一般的なオーヴァードライヴ・ペダルと同じ感覚で操作しても違和感を覚えることはない。

ここまでの印象は“モーグにしては大人しいユニットだな”というものだが、“PEAK”スイッチをONにし、フィルター・レゾナンスを有効にした状態で“FILTER”コントロールを操作すると音世界が激変する。フィルター・カットオフ周波数付近のレベルが大きく持ち上がり、ラディカルなワウワウをかけたような効果が得られるのだ。実際、エクスプレッション・ペダルを用いて“FILTER”パラメーターをリアルタイム・コントロールした際の使い勝手はワウ・ペダルそのもので、“GAIN”を高くした状態でカットオフ周波数が特定のレンジに入ると“ピーッ”という中高域の発振?フィードバックすら生成される。

扱いやすいオーヴァードライヴと、ラディカル、かつ音楽的なトーンを生成するフィルターとのコンビネーション。コントロールこそシンプルながら、得られる効果の複雑さ、幅広さは“Moogerfooger”のコンセプトを確かに受け継いでいる。





Minifooger MF Ring

ギター~ベース向けにチューニングされたリング・モジュレーター

モーグ・アナログ・シンセサイザーが古くからVCOセクションに採用してきたリング・モジュレーター・エフェクトをコンパクトなダイキャスト・ケースに収め、シンプルなコントロールを与えたモデル。原音のピッチに対して加算音、または減算音を出力するピッチ・シフター~ハーモナイザーと異なり、加減算音を出力するリング・モジュレーターではウェット音のピッチを思い通りにコントロールすることこそ難しいが、“FREQUENCY”パラメーターをエクスプレッション・ペダルによりリアルタイムでコントロールすれば、偶然性に満ちたユニークなエフェクトを得ることができる。“Moogerfooger MF-102”直系のトーンはウォーム、かつ重厚で、接続する楽器の種類を選ばない。

金属的な高域が原音にプラスされる“ロボット・ヴォイス”風サウンド。

 

このセッティングで5~6弦12フレットのハーモニックスを鳴らすと、除夜の鐘のような音が出る。ディレイやリヴァーブを併用するとさらにドラマティック!


Situation 1:ミキサー/オーディオ・インターフェイスにはヤマハ“01V96i”を、マイクロフォンにはAKG“C214”を、PC~DAWにはApple MacBook Pro上で動作する“Logic Pro X”をそれぞれ使用した。

Exploring Sound with Minifoogers
音の探求者に捧げる応用例

ギター~ベース・プレイヤーからの「“Moogerfooger”よりもコンパクトで、扱いが簡単なペダルが欲しい」というリクエストに応えるべく開発された“Minifooger”シリーズ。しかし、PCとDAWソフトウェアを用いた自宅での音楽制作が一般に普及し、バンド演奏とDJパフォーマンスを融合したライヴを行なうミュージシャンも多くなった今日、ユニークなエフェクトを生み出すこれらの製品を手に入れたなら、ギター~ベースに限らずあらゆる音源にかけてみたいと望む読者も少なからずいらっしゃるのではないだろうか。

ここでは、“Minifooger”がそうした要求に応えられるかどうかをチェックしてみよう。最初に想定したのは、“Minifooger”をミキサー/オーディオ・インターフェイスのインサート端子に接続し、マイクロフォンで拾った音や、すでに録音~ミックスされたマルチ・トラック音源にエフェクトをかけるシチュエーションだ。

まず、エレクトリック・ギター~ベースが出力するハイ・インピーダンス信号を主なソースとして想定しているであろう“Minifooger”だが、ライン・シグナルをやりとりするミキシング・コンソールのインサート端子に接続しても問題なく動作した。

コンデンサ・マイクロフォンで人の声、打撃音、屋外の環境音といったソースを拾いながら“Minifooger”のパラメーターを気ままに操作していくと、実に面白いサウンドが出てくる。ヴォーカルに“MF Ring”が生み出す加減算音をプラスしてチベットの歌唱法“ホーミー”や“ロボット・ヴォイス”を思わせるエフェクトを得る、打楽器のシンプルなビートを“MF Trem”でブツ切れにしたあとでディレイをかけて予測不可能なポリリズムを生成するなど、音作りの楽しみは無限に広がるだろう。


Situation 2:3台の“Minifooger”を、Doepfer社が製作するアナログ・シンセサイザー“Dark Energy”(奥)の拡張モジュールに見立ててみた。

次に想定したシチュエーションは、“Minifooger”シリーズ・ペダルをアナログ・シンセサイザーの機能をグレード・アップする“拡張モジュール”に見立てるというものだ。シンセサイザーを用いた音作りの基本を学ぶ入門機として人気が高い独Doepfer社製“Dark Energy”のオーディオ出力端子に “Minifooger”を接続し、どのような効果を得られるか試してみた。

“Dark Energy” は小型・軽量なキーボードレス・ボディにVCO× 1、VCF(Voltage Controlled Filter)× 1、VCA× 1、LFO×2の各モジュールを内蔵しており、単体でも十分に多彩な音色を生成できるが、ここに“Minifooger”をプラスすれば音作りの自由度はさらに高まる。“MF Ring”を高級シンセサイザーのVCOが備えるリング・モジュレーターの代替として扱えるのはもちろん、内蔵VCAだけでは得られない領域のオーヴァードライヴを“MF Drive”で加えたり、同機のフィルターをあとづけのVCFモジュールととらえたり、LFOとエンヴェロープ・ジェネレーター(ADSR)をCVソースに選べる内蔵VCAにもう1基のVCAモジュールをアレイする感覚で“MF Trem”を用いたりと、入門用アナログ・シンセサイザーの機能を大幅に拡張することができるのだ。

サウンド/トーンの相性はもちろん、音楽的な効果を簡易な操作で得られるインターフェイスも“Dark Energy”との併用にぴったりで、流石、アナログ・シンセサイザー・メーカーの老舗が製作したストンプボックスだと唸らされる。今回の試奏では“MF Delay”を用いることができなかったが、これを追加したセッティングではVCOを1基しか内蔵しないシンセサイザーから出力されているとは想像できないほどに複雑、かつ重厚なサウンドを聴くことができるはずだ。