エフェクトを“演奏する”ために各パラメーターの動作を洗練させました

--“MF Ring”は、ベスト・セラーとなった“Moogerfooger MF-102”の弟分と考えられます。操作可能なパラメーターは“FREQ”、“MIX”、“TONE”の3つとシンプルながら極めて多彩な効果を得られますが、このモデルの設計で重視したのはどんなところでしたか?

MM : 9Vという限られた電源から“MF-102”と同等のサウンドを引き出すことと、“FREQ”パラメーターの動作を洗練させることを重視しました。内蔵VCO(Voltage Controlled Oscillator)のピッチ可変域をワイドにし過ぎると特定の音程を狙ったファイン・チューニングが難しくなるので、得られる効果の多彩さと扱いやすさのバランスをうまくとることに注意したんです。

--“MIX”パラメーターにより、原音にわずかなウェット音が加わった穏やかな効果から、加減算音が目立つ過激な効果までを容易に操ることができます。これは、ドライ音が大きく変化しないことを望むエレクトリック・ギター~ベース・プレイヤーを想定した仕様ですか?

MM : はい。ギター~ベースではウェット音を抑えたセッティングがベストなケースが多い一方で、クレイジーなサウンドをフレーズや曲にピタっとはめ込むことを好むプレイヤーもたくさんいます。その両方を実現できてこそ、エフェクトを“演奏する”ことが可能になると考えました。



(写真/左から) ●すべての“Minifooger”は、モーグ純正品である“EP-3 ”などに対応したエクスプレッション・ペダル接続端子を備えている。 ●4本のスクリューを回すと裏蓋が外れ、バッテリー・コンパートメントにアクセスすることができる。 ●裏蓋のラベルには“ASSEMBLED BY HAND IN ASHEVILLE, NC”の文字が誇らしげに記されている。



--“MF Trem”も伝統的なギター用トレモロ・サウンドからSE的なパルス・サウンドまで、実に多彩な効果を生成することができます。“SHAPE”パラメーターでは、LFOの波形をどのように変化させていますか?

MM : エフェクト音をトレモロ生成回路に帰還することで、複数のLFO波形をブレンドさせたような効果を得ています。のこぎり波(Sawtooth Wave)は、フィードバックの位相をポジティヴ/ネガティヴで切り替えることにより生成されます。

--“MF Trem”では、すべてのパラメーターをセンター・ポジションに設定した時、ギタリスト/ベーシストにとって最も自然な効果が得られるように感じました。“Minifooger”のパラメーター・ノブは、センター・ポジションがニュートラルで、そこから動かすにつれてサウンドがラディカルなものになっていくよう設計されているのでしょうか?

MM : そのとおりです。すべてのコントロールは12時をスタート・ポジションとし、そこから左右に回すことで音色変化を確認できるよう設計されています。“MF Trem”は、他のトレモロ・ペダルよりも格段に幅広い音作りができるユニットです。その奥深さを、ぜひご自身の耳で体験していただければ幸いに思います。

--“MF Delay”はピュア・アナログ・ディレイと聞いています。BBD ICにはどんなものを使用していますか?

MM : これにはNOSのパナソニック製BBDを使用しています。

--“DRIVE”パラメーターを時計方向に回し切った際には+22dB以上のゲイン・ブーストが可能とのことですが、そのサウンドはオーヴァードライヴの領域に達しますか?

MM : “DRIVE”コントローラーだけでもさまざまな音色変化を楽しめますが、オーヴァードライヴ領域の歪みを作る場合はアンプや他のペダルとのコンビネーションを用いるのが一般的でしょう。ちなみに、“MF Delay”の“DRIVE”はウェット音だけでなくドライ音にも作用するよう設計されています。

--ドライ音とウェット音は完全に分離されたシグナル・パスを通るよう設計されているそうですが、これはエレクトリック・ギター~ベースのようなハイ・インピーダンス楽器の入力を考慮した仕様ですか?

MM : エフェクト音をドライ音から完全に分離可能な仕様としたのは、主にアンプのエフェクト・ループに接続する使い方を想定してのことです。



(写真/左から) ●化粧箱にシリアル・ナンバーを書き込むスタッフ。●箱に入れられ、出荷にまわされる直前の“Minifooger”。 ●社屋の窓は古いモーグ・アナログ・シンセサイザーをイメージしたイラストで飾られている。



--“Minifooger”は、ギター/ベースに適した仕様を備えながらも“Moogerfooger”同様にあらゆるシグナル・ソースに使ってみたいという欲求を喚起します。モーグでは、“Minifooger”をミキサーのインサート端子に接続したり、ヴォーカル・マイクに接続したりするような使い方を推奨していますか?

MM : “Minifooger”シリーズは基本的にギター~ベース用エフェクトとして設計されていますが、もちろんシンセサイザーやドラム・マシンに接続することも可能です。コンソールと組み合わせて使用するケースには、“Moogerfooger”をお勧めします。

--“Minifooger”では今後、どのようなシリーズ展開を思い描いていますか?

MM : アイデアは、すでにかなりの数があがっています。これから、それらのひとつひとつを丁寧に具現化していきたいですね。

図1■4ポール・ラダー型フィルターの概念図

Further Technical Information
技術仕様についての補足

このコラムでは、インタビューで詳述された“Minifooger”各モデルの技術的な仕様のうち、ギタリスト/ベーシストにやや馴染みが薄いと思われるものについて補足説明を試みよう。

まず、オーヴァードライヴである“MF Drive”に搭載された“4ポール・ラダー型フィルター”は、図1に示したように4つのフィルターを直列接続した回路で、その形態が“はしご=Ladder”を想起させることからこう呼ばれる。モーグ・アナログ・シンセサイザーが伝統的に採用してきたこのトーン・コントロールの一種は、シンプルながら音楽的な効果を得られる装置として今も多くのミュージシャンに支持されている。

図2■ロー・パス・フィルターのパラメーター

“MF Drive”は、このシンセサイザー直系のフィルター・モジュールをオーヴァードライヴに追加したユニットとみなすことができ、図2に紹介したラダー型ロー・パス・フィルターのパラメーターを理解しておくと音作りがしやすい。“PEAK”スイッチがOFFの時、“FILTER”は単にフィルターのカットオフ周波数を設定するパラメーターでしかないが、これをONにするとレゾナンスが有効になる。すなわち、“FILTER”コントロールで設定したカットオフ周波数付近のレベルがブーストされ、聴感上、ラディカルなワウワウに似たエフェクトが生じるのだ。

もうひとつ、“MF Drive”と“MF Boost”に搭載された増幅素子“OTA(Operational Transconductance Amplifier)”ICについても触れておこう。与えられた制御電流の大小に応じて増幅率を変化させるOTAは、CVをモジュール間の通信プロトコルとするアナログ・シンセサイザーのVCAに広く用いられてきた。MXRによるペダル・コンプレッサーの名機“Dyna Comp”に用いられた“CA3080”チップもOTAの一種であると言えば、ギタリストにも親しみを感じていただけるに違いない。“MF Drive”と“MF Boost”では、ソフトなクリップ感と、ピッキングの強弱=入力信号の大小に応じてオーヴァードライヴのキャラクターが刻々と変化していくような独特なレスポンスを得られる。この辺りに、OTA固有の特性が表われているのではないだろうか。